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人々のキャリア:小さな日本のモバイル会社が「聞く力」で見つけた独自の声

過去10年以上にわたり、大阪を拠点とするMVNO(仮想移動体通信事業者)「mineo(マイネオ)」は、単にモバイル市場で生き残ってきただけではない。120万人を超える、熱心なファンとも呼べるユーザーコミュニティを育んできたのだ。その生存戦略は、消耗戦になりがちな価格競争ではなく、むしろ熾烈な通信業界においては直感に反するとも言える「本物のコミュニティ作り」にあった。同社のウェブサイトにも掲げられ、そのサービス哲学を象徴する言葉――「Fun with Fans!」。

電力網から生まれた通信事業者

mineoのルーツは、シリコンバレー的なベンチャー支援による破壊的イノベーションとは異なる。その起源は、西日本の産業心臓部である関西地方に張り巡らされた電力インフラにある。親会社のオプテージは、1988年に関西電力(KEPCO)の子会社として設立された。当初の使命は、電力会社が持つ広大な光ファイバー網を活用した法人向け通信サービスの提供だった。この出自が、一般的なテックスタートアップとは一線を画す、堅実さと技術者的な現実主義を同社にもたらした。

2000年代に入り、ケイ・オプティコムへと社名を変更(当時)。光ファイバーインターネットサービス「eo光」で個人向け市場に本格参入し、既存のNTT西日本に対する強力な地域対抗勢力となった。その強さの源泉は、関西エリアに自前の光ファイバー網を保有していたことにある。これにより、非NTT系としては異例なほど、サービス品質とコストに対する高いコントロールを実現できた。

転機は2019年に訪れる。関西電力グループ内のICT事業が集約され、ケイ・オプティコムは「オプテージ株式会社」へと社名を変更。その事業領域は大きく広がり、法人や公共団体向けの統合ICTソリューションプロバイダーを目指すと同時に、成長著しい個人向けインターネット事業と、黎明期にあったモバイル事業(mineo)の育成に注力することになった。新たな企業スローガン「What's next?」は、地域限定の光ファイバー事業者からの脱皮と、未来への野心を示唆していた。電力会社の子会社から総合ICT企業へ。この進化の過程が、mineoというユニークなモバイルサービスが生まれる土壌となった――安定的で、インフラに精通し、それでいて挑戦を続ける企業文化だ。

硬直した市場で見出した「柔軟性」という活路

ケイ・オプティコム(当時)がMVNO市場への参入を決めた2014年当時、日本にはすでに多くの代替キャリアが登場していた。MVNOは、大手キャリア(MNO)の高額で複雑な料金体系からの逃げ道を提供していたが、その多くはサービス内容を絞り込んだ、いわゆる「格安」に特化していた。ケイ・オプティコムはそこに商機を見出した。「高額なスマホ料金が家計を圧迫しているという声は多かった」と、関係者は当時を振り返るかもしれない。「一方で、既存の格安オプションは、サポートやサービス内容で物足りなさを感じる人もいた。我々は、単に安いだけでなく、信頼性が高く、サポートも含めて満足してもらえる手頃な価格のサービスを提供したかった」。

mineoは2014年6月、まずKDDI(au)のネットワークを利用する形でサービスを開始した。この動きはすぐに市場の注目を集め、当初の想定を上回る申し込みが殺到した。

しかし、mineoを真に際立たせたのは、その後の戦略的な一手だった。関西という地盤を超えて全国的な認知度を獲得し、競争が激化する市場で差別化を図る必要に迫られる中、mineoは2015年に大きな一歩を踏み出す。NTTドコモ回線の追加だ。これにより、auもしくはドコモ、どちらかのスマートフォンを利用しているユーザーであれば、端末を買い替えることなくmineoに乗り換えられるようになった。さらに2018年にはソフトバンク回線にも対応。個人向けサービスとしては日本初となる、真の「マルチキャリアMVNO」が誕生した。ユーザーはSIMロック解除などの手間なく、手持ちの端末をそのまま利用できる可能性が大きく広がり、この圧倒的な利便性と柔軟性は、mineoの強力なセールスポイントとなった。

顧客が共創者になる場所:「マイネ王」の魔法

だが、mineoの真髄は技術的な優位性だけではない。むしろ、ユーザーコミュニティを意図的に育成し、「Fun with Fans!」の旗印の下、顧客をサービス開発の「共創者」へと変えていく姿勢にある。この取り組みの中心にあるのが、オンラインコミュニティプラットフォーム「マイネ王」だ。

これは単なるFAQページやサポートフォーラムではない。活気あふれるデジタルの広場であり、ユーザーとmineo運営事務局(スタッフ)が直接対話できる場所だ。「王国教室(Q&A)」ではユーザー同士が疑問を解決し合い、「王国広場(掲示板)」では技術的な話題から趣味まで、自由な雑談が交わされる。「スタッフブログ」ではmineoの取り組みや新サービスの舞台裏が明かされ、ユーザーからのコメントにスタッフが直接返信する光景も日常的だ。2023年3月時点で、この「マイネ王」の登録ユーザー数は約80万人に達し、これはmineo契約者全体の半数を超える規模となっている。

決定的に重要なのは、「アイデアファーム」の存在だ。ここでは、ユーザーがmineoのサービスや機能に対する新しいアイデアを提案し、他のユーザーと議論し、投票することができる。mineoは、ここで支持を集めた提案を積極的に検討し、実現に移してきた。これまでに約9,100件のアイデアが投稿され、そのうち約1,100件が実際にサービスや機能として形になっているという。

「ユーザーのためだけでなく、ユーザー『と共に』サービスを創る」。mineoのブランドアイデンティティ形成に関わった人物は、そう強調するかもしれない。「私たちは常にオープンで誠実でありたい。そして、ユーザー視点で本当に価値のあるものを提供したい」。この双方向の対話は、mineoにとって貴重な市場インサイトの源泉であり、ユーザーの熱烈なロイヤルティを育む土壌となっている。結果として、カスタマーサポートは単なるコストセンターではなく、コミュニティを活性化させる重要な資産へと昇華しているのだ。

共有財としてのデータ:「フリータンク」と「パケットギフト」

この「共創」と「助け合い」の精神は、mineoの最もユニークな機能であるデータ共有の仕組みに色濃く表れている。

「フリータンク」は、いわばコミュニティ全体で利用するデータの井戸だ。ユーザーは、月末に余りそうなデータ容量(パケット)をこのタンクに「預け入れる」ことができる。一方で、データ容量が足りなくなったユーザーは、月に最大1GBまでタンクから「引き出す」ことができる(通常、月末近くの利用が多い)。これは「困ったときはお互いさま」というシンプルな原則に基づいており、データを個人の所有物からコミュニティの共有リソースへと転換させる試みだ。自然災害時には、被災地域のユーザーに対して引き出し制限が緩和されるといった、人道的な運用も行われている。

これを補完するのが「パケットギフト」だ。これは、ユーザー間で直接データ容量をプレゼントし合える機能である。友人や家族はもちろん、マイネ王コミュニティ内で交流のあるユーザー同士でも、気軽にデータを贈り合うことができる。中には、この仕組みを利用して実質的にデータの有効期限を延長する(月末にギフトし合い、翌月に受け取る)といった活用法を編み出すユーザーもいる。これらは単なる便利な機能ではない。mineoが大切にするコミュニティ精神の、具体的な現れなのだ。

絶え間ない工夫が生み出す、独自の価値

mineoの創意工夫は、データ共有だけに留まらない。「ゆずるね。」は、ネットワーク混雑緩和をゲーム化した取り組みだ。通信が最も混雑する平日の昼休み時間帯(12時~13時)に、自発的にデータ通信を控えることを「宣言」したユーザーに対し、達成回数に応じて特典(無料データ容量や、深夜時間帯の使い放題権など)を与える。ユーザーの善意と協力によって、ネットワーク品質の維持を図るユニークな試みだ。

また、「パスケット」という月額オプションを利用すれば、余ったデータ容量を無期限に繰り越して貯めておくことができる。他にも、アプリ内で楽しめる簡単なゲームや、毎日引ける「マイネおみくじ」などで、ささやかなデータ容量が付与される機会も用意されている。

大手キャリアが5Gの最高速度や大容量プランといった「量」や「速さ」を競い合うのに対し、mineoは常にユーザー視点に立った、細やかでユニークな「価値」を付加しようと工夫を凝らしている。その姿勢が、多くのファンを惹きつける理由の一つだろう。

この独自路線は、厳しい市場環境を生き抜くための戦略的な必然でもある。MNO(大手キャリア)は依然として強大な力を持つ。彼らが展開するサブブランド(ソフトバンクのY!mobileやKDDIのUQ mobile)や、オンライン専用の低価格プラン(ドコモのahamo、KDDIのpovo、ソフトバンクのLINEMO)は、まさにMVNOが主戦場としてきた価格重視層を直接的に狙い撃ちしている。事実、日本のMVNO市場全体のシェアは、近年、これらのMNO側の攻勢によって圧迫され、大きな成長を描きにくくなっている。

「この熾烈な競争の中で、単に安いだけでは生き残れない」。近年のmineoのモバイル戦略を担う責任者は、そう強調するかもしれない。「私たちは、ファンの声に真摯に耳を傾け、彼らの潜在的なニーズや不満に応えるユニークなサービスを創造することで、『オンリーワン』のポジションを築かなければならない」。

その代表例が「マイそく」プランだ。これは、一般的なプランのようにデータ「容量」ではなく、通信「速度」を基準にしたプランである。例えば「スタンダード(最大1.5Mbps)」や「プレミアム(最大3Mbps)」といった具合に、定義された速度帯の中でデータ通信が使い放題になる(ただし、例の混雑する平日昼休み時間帯は大幅に速度が制限される)。これは明確なトレードオフだが、4K動画のストリーミングや大容量ファイルのダウンロードといった絶対的な速度は不要で、音楽ストリーミング、SNS、標準画質の動画視聴など、常に安定した接続性を手頃な価格で確保したい、というユーザーにとっては最適な選択肢となり得る。これは、5Gのピークパフォーマンス競争に明け暮れる大手キャリアが見落としがちなニーズに応える、mineoらしいアプローチと言えるだろう。

実績が示す共感、満足度、そして持続可能性

このユニークな戦略は、市場で着実に共感を呼んでいるようだ。mineoは2024年にサービス開始10周年を迎え、その数年前には累計契約者数が100万人を突破した。2023年12月末時点での契約数は126万回線に達している。正確な最新の数字は公表されていないものの、市場調査では一貫して、日本の主要MVNOの一つとして上位に位置づけられている。

おそらくそれ以上に重要なのは、mineoが独立系の顧客満足度調査やNPS(ネット・プロモーター・スコア)ランキングで、常に極めて高い評価を獲得している点だろう。顧客は単にmineoを利用しているだけでなく、しばしば友人や知人に積極的に推奨する「ファン」となっている様子がうかがえる。2023年のオリコン顧客満足度調査では、「格安スマホ」部門で総合1位を獲得するなど、その評価は客観的な指標にも表れている。

それでもなお、あらゆるMVNOにとって共通の課題は、薄い利益率の中でいかにして持続可能なビジネスを構築するか、という点にある。それには徹底した運営効率の追求と、価格競争だけに陥らない、独自の価値提案が不可欠だ。mineoは、そのコミュニティ中心のモデルこそが、持続的な競争優位性をもたらすと信じているようだ。強い顧客ロイヤルティは解約率を低減し、口コミによる新規顧客獲得は広告宣伝費を抑制する効果が期待できるからだ。

親密さはスケールできるか? 次なる10年への挑戦

将来を見据えると、mineoはあらゆるイノベーターが直面するジレンマと向き合うことになるだろう。事業が成長し、技術が進化する中で、どのようにして、これまで培ってきたユーザーとの親密さ、ファン中心のアプローチを維持・拡大していくか、という課題だ。

同社はeSIM技術の導入を進めるなど、技術的な進化にも対応している。また、親会社であるオプテージが進める次世代インフラへの投資(新たなデータセンター構築やAI技術の活用など)からも恩恵を受けるだろう。オプテージの現社長は、eo光とmineoという強力なコンシューマーブランドと、拡大する法人向けICT事業、双方の強みを活かしたシナジー効果に言及している。

mineo自身も、新たな挑戦を始めている。渋谷には実験型未来共創スペース「マイラボ渋谷」を開設し、ユーザーや外部パートナーと共に新たな価値創造を目指す場としている。また、「DENPAto(でんぱと)」と名付けられた新規事業創出プログラムを通じて、企業や個人のビジネスアイデアとオプテージの通信インフラを組み合わせ、「IoX(Internet of 何か)」を共に創り出す試みも進行中だ。トイレで生理用ナプキンを無料で受け取れるサービスや、AIを用いた遠隔見守りスピーカーなど、具体的なアイデアが生まれつつある。

長期利用ユーザーへの感謝を示す施策も見直された。従来、マイネ王での活動量に応じていた特典制度「ファン∞とく」は、2024年から契約年数に応じた特典(mineoコインや契約事務手数料無料コードの付与)へと変更され、「ずっと、mineoがいい」というスローガンの下、長く利用するファンへの還元を重視する姿勢を明確にした。

この「人々のキャリア」が、次の10年もその温かな灯を灯し続けられるかは、これからの挑戦にかかっている。大手キャリアとは異なる価値観を提示し、ユーザーとの対話を重ねてきたmineo。その物語は、効率や速度だけが追求されがちな現代のテクノロジーの世界において、人と人との繋がりがいかに重要であるかを静かに、しかし力強く語りかけている。ギガバイトやメガビット/秒では測れない、コミュニティという名の絆。mineoがユーザーと共に築き上げてきたこの無形の価値こそが、無機質になりがちなデジタル社会に、確かな希望の光を灯しているのかもしれない。彼らが紡いできた物語は、これからも多くの人々の心に響き続けることだろう。


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