NURO Mobile

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ソニーのDNA、モバイル市場を貫く閃光となるか

「NUROモバイル」。ソニーグループの通信部門、ソニーネットワークコミュニケーションズ(SNC)が2016年に放ったモバイルブランドだ。エレクトロニクス界の巨人ソニーが、なぜ血で血を洗うMVNO(仮想移動体通信事業者)市場に打って出たのか? 高速光回線「NURO 光」で培った「圧倒的なパフォーマンス」という名の遺伝子を武器に、安売り競争とは一線を画す戦略で、既存勢力に挑む。インフラを持たないソニーの一員として、いかにしてこの激戦区で存在を刻み、勝利を掴むのか。その野心的な挑戦の軌跡を追う。

ISP戦国時代、ソニーが見せた反骨の魂

ソニーの歴史は「革新」の歴史だ。そのDNAは「モノづくり」に留まらず、ネットワークの可能性にも早くから着目していた。1996年、来るべきネットワーク社会を見据え、ISP事業「So-net」を開始。ハードウェアだけでなく、サービスを通じて顧客と直接繋がる未来を描いた戦略的な一手だった。

そして、このSo-netから、日本のインターネット史を揺るがす、ある"事件"が起きる。1997年、「ピンクのクマがメールを運ぶ」という衝撃と共に登場した「PostPet」だ。無味乾燥だったEメールを、「ペットがメールを届けてくれる」「お世話もできる」という、愛らしくも斬新なエンターテインメントへと昇華させた。このコンセプトは社会現象となり、「PostPetを使いたいからインターネットを始めた」という人々が続出。So-netは単なる接続業者ではなく、デジタル時代のカルチャーそのものを創り出す存在となったのだ。

しかし、ISP戦国時代は甘くなかった。NiftyやBIGLOBEといった強豪が覇を競い、ADSLから光へと技術が激しく移り変わる中で、多くのISPが消耗戦の末にその輝きを失っていった。そんな中、ソニーは常識破りの決断を下す。長年親しまれ、PostPetと共に一時代を築いた「So-net」ブランドを、あえて「NURO」へと大胆に転換させたのだ。

その劇的な転換の狼煙となったのが、2013年の「NURO 光」である。当時主流の1Gbpsを過去にする、下り最大2Gbpsという「異次元の速度」。ダークファイバーを活用し、独自の技術で実現したこの圧倒的なパフォーマンスは市場に衝撃を与え、「NURO=速さ・品質」という新たなブランドイメージを鮮烈に刻みつけた。「世の中を“あっ”と言わせたい」というソニーらしい反骨精神が、停滞しかけたISP市場に風穴を開けた瞬間だった。

多くのISPが苦戦を強いられる中、So-net時代から脈々と受け継がれてきた技術的蓄積と、過去の成功体験に安住せずNUROへと舵を切った大胆な戦略転換こそが、ソニーをISP戦国時代の勝者へと押し上げたと言えるだろう。そして「NURO」は、単なる光回線のブランドに留まらなかった。2021年には、モバイル通信「NUROモバイル」、法人向けICTソリューション「NURO Biz」、さらにはスマートライフやAI関連サービスまでをも包含する、包括的なネットワークサービスブランドへと進化したのだ。この成功体験と強力なブランド力こそが、NUROモバイルが激しいモバイル市場で戦う上での、何よりの武器となった。モバイルサービス統合にあたり「NURO」の名を冠したのは、NURO 光で証明した技術と信頼、そして革新の精神を、モバイルの世界でも貫くという、揺るぎない決意表明だったのである。

激戦区への殴り込み:「一点突破」への道

2016年10月、NUROモバイルは本格始動。当初は豊富な選択肢を追求したが、その複雑さが仇となる場面も。市場の声を受け、SNCは大胆な方向転換を決断。2018年、プラン体系を劇的にシンプル化した。「お客さまの声に耳を傾け、よりシンプルで選びやすいプランを目指した」と、当時モバイル事業を率いていた細井邦彦は語る。これは単なる整理ではなく、NUROモバイルならではの「価値」をどう打ち出すか、新たな戦いへの転換点だった。

次なる一手は、ターゲットを絞り込んだ「一点突破」戦略だ。大手キャリアのオンライン専用ブランドが市場を席巻し始めた2021年、「NEOプラン」を投入。月額2,699円(当時)で20GBというスペックに加え、「価格競争だけでは埋もれてしまう。品質や特定の機能に価値を感じてくれるユーザー層がいるはずだ」と細井は考えた。NUROブランドが持つ「性能」への期待に応え、MVNOならではの「尖った価値」で勝負を挑んだのだ。

NEOプランは、「高品質な専用帯域」による「MNO同等の通信品質」を追求すると宣言。主要SNS(LINE、X、Instagram、TikTok)が使い放題となる「NEOデータフリー」、アップロード通信量が無制限になる「あげ放題」は、SNSヘビーユーザーやクリエイターの心を鷲掴みにした。さらに、3ヶ月ごとにボーナスデータが付与される「Gigaプラス」は、長期利用へのメリットを提示した。細井が目指したのは「MNOのオンライン専用プランやサブブランドに対抗しうる品質と、MVNOならではの尖った機能の両立」。NEOプランは特に若年層やSNS・コンテンツクリエイター層に強く響き、「安さ」ではなく「独自の価値」で戦うNUROモバイルのスタイルを確立した。その後、ユーザーニーズに応え、データ容量は35GB(NEOプラン)/55GB(NEOプランW)へと増量されている。

しかし、NUROモバイルは「尖った」層だけを見ているわけではない。「幅広いお客さまに、それぞれの使い方に合った“ちょうどいい”選択肢を提供したい」という想いから、手頃な価格の「バリュープラス」も提供。繰り越しや一部カウントフリーといった実用的な機能で、コスパ重視層のニーズも満たす。さらに、「データはあまり使わないが通話はしっかりしたい」という声に応え、2023年には「かけ放題ジャスト」を投入。「これまで音声通話がネックで選びづらかった方にも、自信をもっておすすめできる」と担当の渡辺真は語る。

品質と機能で選ぶ「NEO」、コスパ重視の「バリュープラス」、通話メインの「かけ放題ジャスト」。この三本柱は、多様化するユーザーニーズの核心をそれぞれ捉え、最適な価値を提供するという、計算された市場細分化戦略なのである。加えて、ソニーグループのAI技術応用の可能性、3大キャリア対応のマルチキャリア戦略、NURO 光との強力なセット割引など、グループならではのアドバンテージもNUROモバイルの武器となる。

成長の証と、超えるべき壁

NUROモバイルの戦略は着実に実を結び、契約者数は大きく伸長していると伝えられる。激しい競争の中で独自のポジションを築き、成長を続けている事実は、その戦略がユーザーに受け入れられている証左だ。NEOプランの独自機能やバリュープラスのコストパフォーマンスには、高い評価の声が寄せられている。

しかし、課題も存在する。「品質」への期待が高いだけに、ネットワークの安定性、特にピークタイムの速度低下や「パケ詰まり」に対する指摘は、ブランドへの信頼に関わる重要な課題だ。「MVNOである以上、MNOから回線を借りているという構造的な課題はある。しかし、その中でも最大限の努力をして、お客さまの期待に応えていきたい」と細井は認める。支払い方法の制限、実店舗サポートの不在、eSIM導入時のハードルなども、乗り越えるべき壁だと。「手続きの簡便化など、お客さまの利便性向上に繋がるよう、継続的に改善を進めています」とeSIM担当の高橋渉太は語る。そして何より、大手キャリア、サブブランド、他のMVNOによる絶え間ない攻勢は、NUROモバイルに常に進化を迫る。

品質への執念、ユーザーと共に歩む道

NUROモバイルの進化は止まらない。ユーザーの声に真摯に耳を傾け、市場の変化に対応し、プランや機能の改善を続けている。今後の戦略の核心は、「お客さま一人ひとりの声に応え、期待を超える価値を提供し続けること」にあるだろう。マスを追わず、特定のニーズを持つユーザー層に深く刺さるサービスを提供し、その分野で「収益を伴うリーダーシップ」を確立すること。そして、NURO 光との連携を強化し、ソニー/NUROエコシステム全体での価値を高めていくこと。

最大の挑戦は、やはりNEOプランで掲げた「品質」へのコミットメントを果たし続けることだ。MVNOという枠組みの中で、いかにしてユーザーが満足する体験を提供できるか。そのための技術的な工夫と、キャリアとの交渉力が問われ続ける。成功への鍵は、品質重視層、コスパ重視層、通話重視層、それぞれのユーザーにとって「最高の選択肢」であり続けること。ソニー/NUROというブランド力、技術力、エコシステムの強みを最大限に活かしながら、ユーザーの声という「現場」からのフィードバックを真摯に受け止め、改善を続けること。常識にとらわれず、新たな価値を追求するNUROブランドの挑戦が、その未来を照らしている。


【公式】格安SIM・スマホのNUROモバイル
ソニーグループが提供する「NUROモバイル」は、月額330円からの格安SIM・スマホです。0.2GB~55GBで選べて、繰越/ギフト/データフリー等で無駄なく使えます。無料の5Gをはじめ、各種オプションも充実しています。